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2004年08月16日 (月)

「悪者」の不在 (本:2004/08/16)

<購入>
『週刊ビッグコミックスピリッツ』9.16増刊(『増刊ビッグコミックスピリッツCasual』No.1)(小学館

<読了>
秋山瑞人『イリヤの空、UFOの夏 その4』(電撃文庫)

『イリヤの空、UFOの夏』全4冊読み終わりました。終わらないと思っていた夏・部室・休み時間の教室・学園祭などなどのノスタルジーをかき立てる設定、日常から非日常への不意打ち転換、後半のロードムービー的展開、急速な盛り上がりを見せて悲しくも清々しく終わるクライマックス、どこをとっても非常に面白かったです。印象的だったのは、クライマックスでの主人公の「悪者の不在は、正義の味方の不在より千倍も万倍も悲しかった」という心の声。この作品では全編に渡ってヒロインがとんでもなく理不尽な状態に置かれているわけですが、その究極原因である「敵」(つまり悪者)の正体が一応は明らかになった後なのに主人公はそう思うのです。でも、その「敵」の正体が主人公にとって(そして読者にとっても)全く実感がわかないもので、ひょっとしたら大人(を代表していると思われるあるキャラクター)が言うその「敵」の正体も実は完全なウソなのかも知れない、という状態ではこれは非常に強く響きます。ヒロインが置かれた理不尽な状況とヒロインや主人公に対する理不尽な暴力の原因が、最終的にあまりにもウソっぽいものとして現れ、ヒロインが最後に対峙したはずの「敵」は全く描かれずに終わる。このようにこの作品では「悪者」や「敵」は明らかになったかのように見えて実は不在なわけで、それによって状況や暴力の理不尽さが非常に強く心に残ります。そして、最後に「敵」が描かれない中でヒロインは「自由」になるわけですが、これはやっぱり、悲しくても「悪者」や「敵」から自由になることを肯定的に描いているのだろうと思うし、それは正しいことだろうなと思うわけです。「悪者」とか「敵」じゃなくて、そこには「原因」や「理由」だけがあればいいはずなんですよ、多分。

投稿者 enyu : 2004年08月16日 23:59

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