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2004年08月06日 (金)

語りえないことを語る戦い(本:2004/08/06)

<読了>
山田正紀『神狩り』(ハヤカワ文庫JA)

ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』で提示されている「語りえないことについては沈黙しなければならない」という命題をモチーフに、“神”という名の超越的存在の影と戦おうとする人間を描いた山田正紀さんのデビュー作。ヴィトゲンシュタインの『論理哲学論考』は、大学の教養課程の“現代哲学”などで簡単に解説を学んだだけで読んだことはありません。だからかなり誤解があるかもしれませんが、「語りえないことについては沈黙しなければならない」という命題は、要するに言語で表せないことというのは語ることができない(トートロジーですけど)から、言語で語れることが取り敢えず人間の「世界」であって、それ以外のことについては途方に暮れるしかない、ということだったような気がします。これはまあ納得できるわけです。しかし、人間とは「論理レベル」が違っていて語りえない存在として“神”を描いているこの『神狩り』では、主人公はその語りえない“神”の論理レベルでの言語である「古代文字」を必死に解読して“神”と戦おうとします。これはつまり、「語りえぬこと」をなんとかして「語りうること」にしようとする戦いであって、この戦いは、近代では哲学ではなく文学(広義)がやってきたことのような気がします。そして特にそういうことをやっているしやれるのは実はSFというジャンルなのではないか。文学のことなど人並み以下にしか知らないんですけど、そういう戦いがもし文学の場にあるのなら、ちょっと見てみたいなと思いました。そんな感想でした。

投稿者 enyu : 2004年08月06日 23:59

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